歴史学習は何のため?
久しぶりにあの人の本に目を通した。
渡辺竜也「Doing History:歴史で私たちは何ができるか?」
歴史総合パートナーズ9 Doing History:歴史で私たちは何ができるか?
- 作者: 渡部竜也
- 出版社/メーカー: 清水書院
- 発売日: 2019/10/08
- メディア: 単行本
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本書ではまず、歴史の伝統的な3つの立場を紹介している。
現代社会を正しく認識・判断するために歴史を手段として学ぶなら、一般の人たちにとってその歴史の学びには価値や意味があるだろう20
現代社会の理解や判断のための手段としての歴史学習という、「社会科歴史教育」という考え方が生まれる21
歴史学者の研究それ自体が一般の人々にとって全く無駄なものではないはずであり21
歴史は直接的もしくは間接的に現代社会に影響を及ぼしているものなのだから、それ自体で一定の価値が現代の人々にとってもあるはずだ23
過去をよく知ることが現在を知ることになる25
歴史的思考は・・・広く一般市民が共有するべきものであり、そうすることで一般市民も歴史的な出来事の事実解明や解釈に参加することができるようになるべき26
極端なケースでは、歴史を歴史学者たちの主観的な記述と見なし、歴史教育においてはそうした歴史学者の歴史記述の主観性を暴くことを目的とする26
その上で、高校の歴史教育が実証主義に侵されていることを指摘し、
学校は民主主義に寄与しなければならないと考える筆者のような人たちから見ると、とても看過できない問題をもたらしている・・・それは、学問的権威について、自分たちの目や足で十分な確認をしないままに受け入れる姿勢を生み出すことになりかねない点です34
としている。
そうした課題意識から、
第2章で構成主義の可能性と課題
第3章で実用主義の可能性と課題
について論じている。
第2章では、構成主義において一番問題となる歴史的思考について、
⑴史料の厳密な読解と出典の確認
⑵証拠や論拠のある歴史的推論
⑶歴史的文脈への配慮
⑷年代順の思考
の4つを挙げ、それぞれの利点と欠点を話題にしている。
⑴メディアリテラシーが身につく
↔文字史料や絵画史料といったアナログを相手にする場合と、HPのようなデジタルの情報媒体を相手にする場合とでは、必要とされる技能が異なる42
⑵証拠や根拠のある推論を教えるのに最も適している44
↔わざわざ手間のかかる証拠や論拠のある歴史的推論に従事する必要も動機も子どもたちにはないのではないか47
もしこうした活動に子どもたちを参加させたいのであれば・・・彼らの生活や世界において立たされている状況を理解するのに役立つ歴史的論争問題から始まるべき47
⑶(現代人の常識や価値観を捨て去るため)異文化理解や、現在当たり前とされている価値観や常識を問い直すことにつながる
↔過去を反省する姿勢が生まれにくくなる性質があることは確か55
⑷歴史的意味を考察する際に必要であり、最もなじみある思考
↔歴史表現の物語化を避けられなくしてしまう61
といった具合である。
第3章では、
⑴来歴を知る
⑵教訓を得る
⑶人に歴史を伝える
⑷「たら・れば」を考える
⑸歴史を乗り越える
の例を挙げ、歴史教育への転用の可能性を考察している。
歴史教育をどうにか民主主義教育につなげたい
という願いがビンビンに伝わってきた。